平成29年度 文部科学省私立大学研究ブランディング事業選定

藻類成長因子を用いた海藻栽培技術イノベーション

年次目標及び実施計画

平成29年度

目標

研究活動

本事業全体として、下記の3つの研究事業を実施する。

研究1

アオサノリの安定した陸上養殖システムの実現と地域への展開

研究2

緑藻成長因子サルーシンの沿岸網養殖への応用

研究3

藻類の分化・成長の機序解明、新たな促進因子の探索と紅藻類への応用

平成29年度の目標
研究1

準プラントレベルの水槽でのアオサノリの通年陸上栽培を実現し、最適栽培条件を見出す。(指標:年間の総生産量)

研究2

従来型の養殖網へのアオサノリ、スジ青ノリの種付けの効率を促進するため、サルーシンを活用する。そのための基礎条件を検討する。(指標:種付けの効率)

研究3

天然化合物ライブラリーのデータベース整備(指標:データの入力状況)

ブランディング戦略

 ブランディング事業開始にあたって、受験生、卒業生、地域住民、水産関係者(ステークホルダー①~④)を対象に、本学の研究活動と科学力に対するの認知度の調査を行って現状を把握し、今後の5年間の活動目標を設定する。(指標:意見聴取の情報量)

実施計画

研究活動
研究1

2.5tの準プラントレベルの水槽を用いて、サルーシン添加による栽培アオサノリの生産量が、小規模の水槽での栽培の場合に比べてどのように変化するか検討する。5mmサイズのアオサノリの種苗が15~25cmの最終生体サイズに成長するまでの期間を指標に、水温、ミネラルバランスの影響を検討し、生産量を増加させる最適条件を探す。(薬学部-徳島県)

研究2

海に設置する従来型の養殖網への種付け(ノリの胞子の付着・分化・成長)の効率を促進するため、事前に養殖網を陸上水槽に短期間浸漬して種付けを行い、サルーシン添加の効果を調べる。アオサノリ、スジ青ノリの成熟生体から放出される胞子とサルーシンとを養殖網を浸した水槽に添加し、種付けの効率を促進する。最適なサルーシン添加濃度、水温、ミネラルの種類や濃度の影響を検討する。(理工学部・薬学部-香川県)

研究3

① 本学にすでに存在する天然化合物の成分分析を進めるとともに、物性情報をデータベース化し、系統的に保管する。(薬学部・香川薬学部・生薬研究所)

ブランディング戦略

 本学のイメージに係るこれまでのアンケート調査や意見聴取、既存データの分析結果から、本学の研究活動に対する評価が低い結果が得られている。事業開始初年度は、① 受験生、卒業生、地域住民、水産関係者などから再度アンケート調査、意見聴取を行い、現状での評価を把握する。② 本事業の開始について、大学案内、同窓会誌、大学ホームページ、各学部のホームページ、SNSを活用し、情報発信を開始する。

平成30年度

目標

研究活動
研究1

アオサノリの商業ベースでの陸上栽培を開始する。(指標:年間生産量)

研究2

初年度に条件検討した種付け網を用いて香川県志度湾内でのノリ養殖の増産を実現する(指標:従来法との収穫量の差)。

研究3

アサクサノリなどの紅藻類の成長因子を探索するための基礎的な実験条件を整える。サルーシンの作用標的の候補を網羅的に検索する。(指標:アサクサノリ殻胞子の培養、標的分子探索システムの構築)。

ブランディング戦略

 アオサノリの陸上栽培を実現した本学の研究活動、科学力をより確実に実感してもらうため、一方通行の情報発信だけでなく、オープンキャンパス等の機会を活用して、アオサノリに関するイノベーション技術を見る、触る、食べることで体感してもらう。(指標:各行事への参加者数)

実施計画

研究活動
研究1

① 初年度に最適化した条件のもと、水槽に添加する種苗の量を増やし、まず2.5t水槽で3~5cmサイズにまでアオサノリを栽培する。その後、10-20tの水槽へ移して最終成体まで栽培する。大規模水槽への移動について最適のタイミングを検討する。② 付加価値を高めるための検討を開始する。この技術で生産したアオサノリのミネラル、ビタミン、香り成分、健康増進成分、食物繊維の含有量を定量し、どの成分が優れているか評価する(薬学部・人間生活学部食物栄養学科-徳島県)

研究2

水槽で種付けを行った養殖網を、実際に香川県志度湾に設置してノリの収穫を開始する。その際、従来法と収穫量、品質(色落ちがないか等)の比較を行う。内湾での養殖は水温が低下する10~3月に実施する。(理工学部-香川県)

研究3

① カキ殻に穿孔させたアサクサノリ(糸状体)を天然海水で室内培養する。糸状体の殻胞子嚢から放出される殻胞子を採取し、人工海水で培養可能なアサクサノリ殻胞子を調製する。② アサクサノリが自生している地域の水には、紅藻類成長促進因子産生バクテリアが生存している可能性が極めて高い。その地域の水を採取し、共生バクテリアの培養を開始する。③ サルーシンの標的分子を探索するため、次世代シークエンサーを活用して緑藻類の遺伝子ライブラリーを作成する。(薬学部・香川薬学部・生薬研究所)

ブランディング戦略

 オープンキャンパス、体験教室、大学祭などの機会を活用し、大学発陸上栽培アオサノリの試食、顕微鏡によるアオサノリの種苗、成長標本の観察・展示などを行う。また、栽培施設の見学会、試供品の提供などを通して地域住民、水産関係者への情報発信を行う。学内、学外の評価委員会に提出する専門家向けの報告書とは別に、写真やまんがなどを多用したわかりやすいパンフレットを作成して、本事業の内容を高校生や一般向けに発信していく。

平成31年度

目標

研究活動
研究1

水槽栽培の利点を生かし、窒素やリン系の栄養塩を添加することで、香り成分や健康成分を豊富に含有する付加価値の高い緑藻類の栽培を開始する。(指標:香り成分や健康成分の含量の増大)

研究2

季節の影響を受けないサルーシンを用いた種付け網の作成により、年間2回以上の養殖を実現する。(指標:1年間の養殖サイクル数)。

研究3

アサクサノリ無菌殻胞子の成長・分化を促進する天然化合物、および共生バクテリアの探索。(指標:スクリーニング回数)。

ブランディング戦略

 大学発のイノベーションによって地域の養殖水産業の復興、活性化が進捗している状況について、ホームページ、動画、パンフレットなど様々なコンテンツを制作して地域住民への浸透を図り、大学の研究活動・科学力についての認知度を高める。事業開始3年目の中間評価を学内、学外で行い、ブランディング戦略の修正、新たな展開を企画する。(指標:コンテンツの質と量)

実施計画

研究活動
研究1

窒素系、リン系、および様々な種類の栄養塩の添加量を変えてアオサノリを栽培し、香り成分やD-システノールなどの健康成分の含量が最適となる栄養塩の種類と量を決定する。(薬学部・人間生活学部食物栄養学科-徳島県)

研究2

海域での網養殖では、年間1回の養殖しか行えない。サルーシンを用いれば、季節や天候に左右されることなく種付け網を準備できる利点を活用し、網養殖の二期作もしくは三期作を試みる。(理工学部-香川県)

研究3

① 1次スクリーニングとして、アサクサノリ殻胞子の海水溶液に対して、天然物ライブラリーの中から選んだ検体の混合物を添加して、1ヶ月無菌培養し、葉体が形成されるかどうか確認する。② アサクサノリが自生している周辺の海水を用いて同様のスクリーニングを行い、葉体形成を促進するバクテリアを探索する。③ 作成した緑藻の遺伝子ライブラリーを活用し、サルーシンおよび類似化合物が作用する可能性のある分子を探索する。(薬学部・香川薬学部・生薬研究所)

ブランディング戦略

 陸上栽培アオサノリの事業展開によって、生産量、販売高、新規雇用などの経済指標がどのような状況になっているのか、外部評価委員会等による状況報告、評価を受ける。良好な結果が期待されるので、その成果をさらに大学発の様々な媒体(大学案内、ホームページ、同窓会誌)およびオープンキャンパス等で発信していく。また、メディアの取材を積極的に受けるだけでなく、人間生活学部メディアデザイン学科の参加により、大学独自のコンテンツを作成して、養殖産業のイノベーションへの本学の貢献を発信する。また、コンサルティング会社に依頼して、本学のブランドイメージが3年間でどう変化したか、今後何が必要かについて調査を実施し、ブランディング戦略の修正、新しい展開を考える。

平成32年度

目標

研究活動
研究1

香り成分やD-システノール酸などの健康成分を豊富に含有するアオサノリを大学発ブランド品種として安定生産する。(指標:生産効率、安定性、品質の再現性)

研究2

志度湾内での海流、栄養塩の分布の違いによって新規種付け法で養殖した緑藻の品質がどのように変化するか調べ、高品質のノリの安定生産を実現する。(指標:最適な栽培場所の特定)。

研究3

共生バクテリアのスクリーニングをさらに続行し、アサクサノリの成長・分化を促進するバクテリアを同定する。(指標:有効バクテリアの特定)。

ブランディング戦略

 大学発の高品質で健康成分の豊富なアオサノリのブランドイメージを向上させることで、本学のブランドイメージの向上につなげる。(指標:大学発ブランドアオサノリの知名度の向上)

実施計画

研究活動
研究1

① これまでに確立した栽培システムを用いて、高品質のアオサノリおよびスジ青ノリを栽培する。② ノリの成分の新たな生理活性、健康増進効果を探索し、大学発アオサノリのブランド価値を高める。(薬学部・人間生活学部食物栄養学科-徳島県)

研究2

閉鎖水域である志度湾は、場所によって海水中の栄養塩の種類と量に差異がある特性を利用し、2km間隔で網養殖することで、最適な養殖場所の特定を行う。(理工学部-香川県)

研究3

① 前年度同様、天然物ライブラリーを活用してアサクサノリ殻胞子の成長・分化を促進する化合物のスクリーニング、絞り込みを続ける。② アサクサノリが自生している海域中のバクテリアの中から、紅藻類の成長を促進するバクテリアを複数選別する。③ ②で見いだした共生バクテリアの遺伝子ライブラリーを作成する。(薬学部・香川薬学部・生薬研究所)

ブランディング戦略

 大学発の高品質で健康成分の豊富なアオサノリを開発し、その商品の知名度の向上、ブランド化のための広報活動に、本学人間生活学部のメディアデザイン学科、食物栄養学科の力を活用する。また、大学発の栽培アオサノリのみならず、アオサノリそのものの知名度を全国レベルで高めることに本学のメディアデザイン学科、総合政策学部が貢献することで、地域に貢献する大学としての知名度も上げていく。

平成33年度

目標

研究活動
研究1

本事業で確立した高品質のアオサノリの類似品との区別を簡便に実施できる検査法を樹立する。(指標:検査法の識別効率)

研究2

サルーシンによる種付け法を活用した網養殖による高品質ノリの年間生産量の拡大を実現する。(指標:年間総生産量の増加割合)

研究3

アサクサノリの成長・分化促進因子の最終的な同定をめざす。(指標:候補物質の同定)

ブランディング戦略

 本事業の最終年度において、本事業の総括的な成果の発信、評価のまとめを行う。また、本事業に関連した大学発ベンチャー企業を設立し、起業を目指す人材を育成する。5年間の研究事業の成果を地域に浸透させた結果として、大学のイメージアップが受験生の増大につながったかどうか、各ステークホルダーの意見を聴取し、次の5年間へ向けたステップアップを図る。(指標:受験生の増加)

実施計画

研究活動
研究1

徳島県の名産である鳴門わかめの類似品の出現があとを絶たない。同様にアオサノリなどの類似品が出回ったときに、大学発ブランド品種の価値を守るため、PCRなどの簡便な方法で本学が樹立した高品質アオサノリと類似品を識別できる手法を開発する。(薬学部・徳島県)

研究2

サルーシンを用いた新規種付け法の有用性と再現性を確認するため、前年度と同様の条件で網養殖を実施し、生産量を確認する。(理工学部-香川県)

研究3

アサクサノリの成長・分化を促進させる共生バクテリアの遺伝子ライブラリー、および、大量培養によるタンパク質化学的アプローチにより、紅藻類の成長因子の候補となる複数の化合物の同定を試みる。(薬学部・香川薬学部・生薬研究所)

ブランディング戦略

 学内、学外の評価委員会に提出した各年度の報告書を1冊にまとめ、本事業の最終成果報告書として行政、水産関係者、地域メディア等に配布する。5年間で得られた知財を整理し、特許申請すべきものをURAが中心となってとりまとめる。大学発ベンチャーを設立した場合、そのこと自体を大学の活動として情報発信するのみならず、ベンチャー企業が大学と地域の養殖水産業との懸け橋となるように動く。コンサルティング会社に依頼し、5年間での大学ブランドイメージの変化を総合的に評価してもらい、次の5年へのステップアップにつなげる。