藻類成長因子を用いた海藻栽培技術イノベーション

私立大学研究ブランディング事業 総括者挨拶

大学の使命は、教育、研究、地域貢献の3つを行うことです。しかも、この3つが単独ではなく、有機的に行われます。このような機能を有する組織は大学以外にはありません。

 徳島文理大学は、教職員と学生の協働による、研究に基づく教育~教育を通じた研究を推進しています。
 その研究成果は、文部科学省科学研究費補助金の獲得額と採択件数、Nature Index、及び、Thomson Reutersの Essential Science Indicators、及び、University Ranking by Academic Performance等の研究力ランキングで高い位置にランクされており注1)、本学は「有力研究大学」の一角であると自負しております。

 さらに2017(平成29)年度に本学が選定された文部科学省私立大学研究ブランディング事業「藻類成長因子を用いた海藻栽培技術イノベーション」は、研究の成果を地域産業の振興に貢献しようとするもので、まさに3つの使命を果たそうとする本学の考えが具現化されたものです。

 本事業は、「私立大学研究ブランディング事業」のタイプA選定であり「特定の地域あるいは分野における、地域の資源活用、産業の振興・観光資源の発掘・文化の発展への寄与、企業や雇用の創出等を目的とし、学長のリーダーシップの下、大学の特色ある研究を基軸として、全学的な独自色を大きく打ち出す取組」に、内容的に相応しいものであり、その学内推進体制も構築しています。

 本事業の基礎研究は、今を遡ること13年のScience論文注2)が起源です。この論文は、(株)海洋バイオテクノロジー研究所と徳島文理大学薬学部の共同研究で、アオサノリが単細胞から葉状体に変化・成長するためには、アオサノリに付着しているバクテリアが生産する藻類成長因子が必須であることを発表しました。そして、藻類成長因子を同定して、Thallusin(サルーシン;thallus=葉状体に因む)と命名しました。その後、徳島文理大学薬学部の山本准教授らは、サルーシンを化学合成することに成功し注3)、安価に実用量のサルーシンを製造することを可能としました。そして、サルーシンを添加した海水の水槽において、アオサノリを葉状体として増殖させることに成功しました。このような成果をもとに、徳島県、香川県のアオサノリ、スジアオノリ養殖業を再生・復興しようとするもので、教育・研究活動が地域貢献へと発展した「大学発の事業」であります。



注1)徳島文理大学の研究実績
本学は学生の研究活動への参加による能動的学習を推進しており、その結果として下記のような指標で示されるとおり、量及び質の両面で、優れた研究成果を挙げている。
(a) 文部科学省科学研究費(科研費)補助金獲得額
全国私立大学の科研費獲得ランキングで、毎年70位前後にランクされている。平成28年度の科研費補助金額は、1億1479万円で、全私立大学中72位、四国では1位、中国四国では2位であった。 (b) 文部科学省科学研究費新規採択件数
次の専門分野(科研費細目)において、平成28年度に採択された件数が国公私立全大学中、ベスト10にランクインしている。
「動物生理・行動」 7位
「天然資源系薬学」6位
「環境・衛生系薬学」4位
(c) Nature Index
英国の著名な学術雑誌Natureは、世界の研究機関の研究力に関する、Nature Indexという指標を毎年発表している。これは、Natureが選んだ一流の自然科学系雑誌に掲載された論文の著者の所属研究機関に基づく研究機関のランキングである。本学は常にこのランキングで日本のトップ100付近に入っている。平成28年度のランキングでは、本学は全研究機関(大学、国公立研究所、民間企業研究所)中78位、全国の私立大学では15位、中四国・九州の私立大学では1位である。
(d) Thomson Reuters, Essential Science Indicators
アメリカの情報企業であるトムソン・ロイター社は、重要な研究論文(引用される頻度が高い)を出版している研究機関についてEssential Science Indicatorsという指標を発表している。このデータベースに収録されている大学が研究大学とみなされている。
四国の大学でこのデータベースに収録されている大学は、徳島文理大学と徳島大学、愛媛大学、高知大学、香川大学の5大学のみである。
(e) University Ranking by Academic Performance (URAP) は研究論文に関する公知の事実に基づいて、高等教育機関(大学等)の研究力を量(論文数)、質(被引用件数)、及び、国際性(国際共同研究)等の点から評価したランキングで、Middle East Technical Universityが発表している(http://www.urapcenter.org/2017/index.php)。URPAに取り上げられている大学は約2,500大学で、これは世界の全大学のトップ10%にあたる。このランキングで、徳島文理大学は2010年~2017年の8年間、日本の全大学(約780大学)中106位~129位にランクされている。

注2)Matsuo, Imagawa, Nishizawa & Shizuri, “Isolation of an Algal Morphogenesis
Inducer from a Marine Bacterium,” Science, 307, 1598 (2005)

注3)Yamamoto, Takagi, Oshiro, Mitsuyama, Sasaki, Yamasaki, Yamada, Kenmoku, Matsuo, Kasai & Imagawa, “Total Synthesis of (−)-Thallusin: Utilization of Enzymatic Hydrolysis Resolution,” J. Org. Chem., 79, 8850-8855 (2014)