ナノ物質工学科の梶山博司教授は、植物工場におけるレタスの栽培日数を半減できる次世代栽培技術を確立しました。植物が睡眠している夜間に睡眠を妨げない光環境で昼間と同等の光合成を起こすのが特徴で、これにより植物の生育は促進されます。この研究により、なぜ植物が早く栽培できるのかについてお話を伺いました。
プラズマテレビの技術を使って新たな発見!
— この研究を始めようと思ったきっかけをお聞かせください。
プラズマテレビが発する肉眼では見えない「パルス光(光の点滅)」の間隔が、植物の光合成周期が似ている点に着目。小型パネルから青色のパルス光を夜間に照射することで、日中に蓄えた糖を夜間にも補充して成長を促すことに成功しました。この研究は、長年プラズマテレビについて研究してきたことと、研究に定評のある徳島文理大学へ就任したことがきっかけになったと思います。安くておいしい食品を食卓にお届け!
— 植物工場のコストパフォーマンスは良くなりますか。
プラズマパネルは、明るさが従来の植物工場の1万分の1以下で、消費電力が少なく、LEDを光源としているとしている植物工場では小規模の投資で導入できます。これにより収穫までの栽培日数が半減できたり、糖度が向上した果実を栽培できたりするので、これまで以上に安くておいしい食品を食卓にお届けできる可能性があると期待しています。
本技術を、LEDや蛍光灯を光源にしている植物工場に応用したところ、レタスの栽培重量は、従来法にくらべて最大で2倍になることを確認しました。
学生主体の研究で研究対象も拡大
— 植物工場の研究を行っている学生さんについて教えてください。
現在は4人の学生が主体となって研究に取り組んでいます。レタスの栽培から始まったこの研究は、レタスだけでなく、「イチゴやブドウなどの果実の糖度向上」、「ノリや海藻類の成長促進」と研究対象を拡大しており、「光合成を行うものすべてに応用できる可能性がある。」と期待しています。1人がひとつの対象植物を研究するのではなく、4人全員が全ての植物の栽培研究ができるよう勉強に取り組んでいます。中には大学院に進学してより専門的な勉強をしたいと考えている学生もいます。
植物工場の研究に励む梶山研究室の皆さん
寝た子は起こさず、生育促進
— 見た目や味の面でも課題がありましたが、どのように改善したのでしょうか。
以前は太陽光や蛍光灯の光を当てていた日中にも、昼間の光の強さに設定した「パルス光」を同時に照射していました。 しかし、成長速度は上がらず、逆に光が強すぎてしおれてしまい、味にも影響がありました。そこで日中は太陽光や蛍光灯の光があるため手を加えず、夜間のみしおれない程度の弱い「パルス光」をあてたところ、それまでにない速さの成長が見られました。「昼間と同等の光合成を起こすが、植物の睡眠は妨げない」まさに寝た子(植物)は起こさず、生育促進ですね。
レタスの大きさを計測する梶山教授と学生
日本、世界、そして宇宙空間へこの技術を広めていきたい
— この技術をいかし、今後はどのようなことをしていきたいとお考えですか。
現在、農業や漁業の分野では労働力が減少傾向にあり、このまま減少が続くと今までできていたこともできなくなります。労働力減少に伴い、今後はある程度工業化することも大事になってくるのではないかと考えます。その中で私にできることは安心で安全な食料を増産することだと思っています。そして、今後は、この技術を生かして3つのことについて取り組みたいと思っています。
①栽培種ごとに生育条件を明らかにして2020年度には商品として実用化する。
②大きな農地でも使用できる光源を完成させ、日本だけでなく日照時間の少ない海外にも技術を伝える。
③水や光の少ない宇宙空間でも少ないエネルギーで農業ができるように改良する。
理工学部ナノ物質工学科 教授 梶山博司
学位:理学士・学術修士・理学博士 専門は非平衡ナノ材料・電子物性工学・プラズマ工学
2002年から、東大生産技術研究所でプラズマテレビの開発を担当し、2006年から広島大学大学院の教授としてプラズマテレビの研究を続けた。2012年に徳島文理大学に着任し、プラズマテレビが発するパルス光の間隔と、植物の光合成との間にある類似性に気付き、次世代栽培技術の確立。