平成29年度 文部科学省私立大学研究ブランディング事業選定

藻類成長因子を用いた海藻栽培技術イノベーション

事業内容

事業目的

事業目的

本事業の目的は、徳島文理大学が所在する徳島県や香川県の主幹産業である海藻養殖業から抽出された課題に対して、本学の基礎研究から集約された知見、技術、ノウハウを結びつけ、薬学・環境科学・生物(理工)学・栄養学・総合政策科学を専門とする学部学科が協働することで具体的な解決策を提案すると共に、地域を支える人材の育成へと繋がる活動として発展させることである。

地域の水産業を取り巻く情勢と課題

徳島県は吉野川や那賀川が紀伊水道に流れ込む水の豊かな地域である。淡水と海水が混ざり合う汽水域は海藻の生育に適した環境で、古くからアマノリ(海苔の原料)やアオサノリ(あおさ、ノリの佃煮の原料)、スジ青ノリ(青ノリの原料)などの天然採取や養殖による水産業が栄えてきた。アオサノリは中性脂肪を効果的に抑制するD-システノール酸やビタミン類を豊富に含有することから健康食品としても国内外から注目されている。しかし近年、温暖化に伴う水温の上昇(西日本海域では平均海水温が1.3度/100年の世界的にも異例の上昇;気象庁報告)や、ミネラルバランスの変化などにより、これら海藻類の水揚げ量は減少の一途を辿っており、アオサノリ養殖は1988年前後を境にほぼ衰退した。スジ青ノリについては、日本一の生産量(全国シェアの7-8割)を維持しているが、最近は生産量が安定せず、減少している。本学香川キャンパスが所在するさぬき市沿岸でも、古くから内湾の穏やかな海域を活かしてノリの養殖が行われてきた。しかし、生産量の減少と色褪せ等の品質低下が起きている。これらの原因となる高水温、栄養障害など自然環境に由来する要因を克服するための抜本的な解決策は現時点で存在しない。藻類の生産量の低下は、養殖水産業からの若年労働者の流出、地域の水産加工業の空洞化にもつながっている。
上述の徳島・香川の水系地域が抱える課題を抜本的に解決するためには、従来の発想とはまったく異なる新技術の開発、地域環境と調和した継続可能な養殖技術の確立、および、高齢化が進行する中においても、地域の人々が活き活きと活躍できる地場産業としての水産養殖業の活性化が待ち望まれている。

本学の特色

徳島文理大学は、薬学部・香川薬学部・理工学部・生薬研究所など、自然科学に関わる学部・学科を多く擁している。特に薬学部・香川薬学部と生薬研究所は、これまで徳島や香川の両県下に自生する植物・藻類・海草・海綿等を利用して、生理活性物質の同定と応用に係る研究分野を牽引し、発展させてきた。中でも、植物や共生バクテリア等が含有する成分について、その構造決定と機能解析、合成に至る天然物化学の研究分野では世界のトップクラスの業績を誇り(ブランディング戦略参照)、関連研究のために両県内はもとより世界中から天然物試料が集まっている。これらの複数の学部・学科が、地域の課題解決に貢献する有用物質の探索などの基礎研究を展開している。また、人間生活学部には食物・栄養学科があり、地域の特産食品やジビエ料理の活性化に関わっている。総合政策学部は自治体との関係も深く、地域の産業活性化に関与してきた。

本事業に至る研究の経緯

海藻類の生育には共生するバクテリアが必要であり、海水温上昇などの環境変化で共生バクテリアが減少したことが藻類生産量低下の要因となっている。近年、本学薬学部の研究グループは、これまで謎だった緑藻類の初期発生(葉体形成)をバクテリアが制御する機構を解明し、バクテリアが生産する緑藻類成長因子(サルーシン)を同定した。サルーシンは天然物質であるが、既に本学薬学部で人工合成が可能となっている。サルーシンを共生バクテリアが存在しない水槽内に直接添加することにより、これまで不可能と考えられてきたバクテリアに依存しないアオサノリの種苗 (直径5mm程度の葉体)の陸上での生産に初めて成功した。また、地域の汲み上げ海水(鳴門市ウチノ海の海水)を用いて、上記の種苗から「大学産アオサノリ1号」となる最終生体の完全養殖にも成功している。この技術開発は地域のメディア等で大きく取り上げられ、徳島・香川の両県で衰退したアオサノリ養殖産業の完全復活をかけた革新的な新技術として注目されている。

研究事業の計画

本事業では、地域の主幹産業である海藻養殖業に着目し、地域が抱える課題に対して、本学の科学力を結集し、自然環境に左右されやすいバクテリアから脱却した新たな藻類生育コントロールという新技術を核に、具体的な解決策を提示する。そのため、下記の4つの課題について、学長主導のもとで事業を推進する。

1, アオサノリなどの緑藻の効率的で安定的な通年陸上栽培システムの開発
これまでにアオサノリの陸上栽培システムについて、小規模試験で成功している。今後、徳島県水産課・地域の漁業関係者と連携しながら、通年的且つ効率的な陸上養殖システムを本格的に確立する。また、この陸上栽培システムを同じ緑藻類のスジ青ノリにも応用していく。
2, 種付け網を用いた沿岸養殖(従来法)への応用
伝統的な内湾での網養殖では、湾内に打ち込んだ支柱に「種付け」した養殖網を張って海藻を養殖する。種付けには藻類成長因子の存在が必須であるが、近年、この成長因子を産生する水生バクテリアの減少が懸念されている。そこで、種付けに使用する養殖網に、本学で合成した藻類成長因子をあらかじめ水槽内で直接しみこませ、種付け後の藻類の正常な発生を促す技術を開発し、安定的な養殖網漁法の確立を目指す。香川県の内湾漁業の活性化に関わってきた理工学部地域共同開発センターと連携しながら事業を展開する。
3, 新たな藻類成長因子の探索研究
これまでの本学の研究により、海水中のバクテリアが生産する海藻成長因子を人工合成することで海藻類の生産量を飛躍的に変化させられることを見出している。そこで、この技術を緑藻のアオサノリだけでなく、生産量が激減している紅藻類のアマノリ(特に、絶滅危惧I類に指定されているアサクサノリやスサビノリ等)に活用することを企画している。サルーシンは、緑藻類の発生過程を強力に誘導するが、紅藻類には効果を示さない。そこで、本学で既に確立した海藻アッセイ系、天然物化合物ライブラリー、スクリーニング技術、化学合成技術、分子生物学的手法を活用し、紅藻に対して特異的に作用する新たな成長因子の探索を行う。
4, 藻類の栄養価など付加価値の拡大と流通・宣伝戦略の確立
自然界で育つ藻類と異なり、水槽内で栽培される藻類は、栽培環境を変化させることで、特定の栄養成分やミネラル、あるいは香気成分を強化することも可能となる。本事業で新たに開発される付加価値の高い藻類を地域のブランド商品として国内外に展開していくため、地域の活性化、地産食材の活用に関わってきた総合政策学部・人間生活学部と連携し、自治体、漁協、地場産業と協同して、流通、宣伝、販売戦略を策定する。
本事業の内容は、以下に提示する「本学の将来ビジョン」を強く反映するものであり、本事業の活動を通じて、本学が目指すグローカル教育の一層の推進を図ると共に、地域活性化に貢献する本学のブランド力の発信のための大きな契機としたいと考えている。
大学の将来ビジョン

「自立協同」を建学の精神とする徳島文理大学では、徳島・四国の地域に根ざした大学として、学術的見地から地域社会を支える役割を担うと共に、グローカル教育を推進することで、「地域の発展に貢献できる人材」の育成に主眼を置く(大学の将来ビジョン)。本事業は、地域水産業の抱える課題に対して本学独自の具体的な解決策を提案し、それを具現化することで社会に還元する試みであり、そのプロセスは、本学の目指す人材育成の見地からも将来ビジョンと合致する。地域の大学としてあるべきひとつの姿勢を指す先導的な取り組みであると共に、本事業の活動が、参加予定の学部学生にとって「自立協同」の建学精神を習得するための貴重な経験になると確信している。

期待される研究成果

1,「アオサノリなどの緑藻の効率的で安定的な通年陸上栽培システムの開発」から期待される成果
 すでに、本学で人工合成した緑藻類成長因子を用いたアオサノリの無菌化種苗の作成、汲み上げ海水を用いた最終生体の陸上養殖に小規模試験で成功している。今後、実際の養殖規模で試験養殖の実施を予定しており、本技術による革新的な陸上養殖システムへの実用化によって、衰退した徳島・香川の両県におけるアオサノリ養殖の復活とさらなる発展に寄与できる。
本事業によって新たな雇用創出に繋がることも期待される。水質管理の容易な水槽養殖法の利点を活用して、商品価値の高い機能性品種の開発、産業化へとつながる可能性がある。また、管理が簡便で過剰な重労働を伴わない陸上養殖システムの導入は、高齢化が進む徳島県南部(美波町や海陽町)において、高齢就労希望者に魅力的な働き場を提供する可能性を有している。
2,「種付け網を用いた沿岸養殖(従来法)への応用」から期待される成果
 内湾での網養殖は、古くから徳島や香川の地域に根付いた伝統的な養殖法である。春を告げる沿岸部独特の風物詩となっており、今後も地域文化の一つとして継続していく必要がある。この網養殖における藻類生産量が近年減少している要因として、海水中に存在するはずの藻類成長因子産生バクテリアの大幅な減少が関与している可能性が高い。本事業で開発を企画している藻類成長因子を添加した水槽での種付け網の作成によって、良質な種付け網が作成できるようになれば、従来の伝統法による安定生産と生産増が期待できると共に、養殖産業の活性化のみならず、地域文化の維持、継続にも寄与できる。
3,「新たな藻類成長因子の探索研究」から期待される成果
 江戸時代から人々に愛されてきた紅藻類のアサクサノリは今や絶滅危惧I類に指定され、代替品となっているスサビノリについても、品質の低下から年間800トン以上が廃棄されている。このような背景を踏まえれば、アサクサノリ等の紅藻類の生育に必須な成長因子の探索は急務の課題である。本事業で開発される技術を用いれば、アオサノリなどの緑藻類のみならず、需要の大きいアサクサノリなどの紅藻類についてもバクテリアから脱却した新技術による陸上養殖が可能となる。この分子テクノロジーを用いた新技術の開発は、徳島・香川にとどまらず国内外の養殖水産業の活性化に貢献するものである。また、本事業は地場産業の復活と発展に貢献できる本学の科学力を広く地域住民や受験生にアピールし、大学のブランド力を高めるためにも、全学の力を結集して取り組むべき重要な課題と考えている。
4,「藻類の栄養価など付加価値の拡大と流通・宣伝戦略の確立」から期待される成果
 アオサノリは全国での流通量も多く、栄養価も高いが、アサクサノリに比べれば知名度は低い。本事業で開発可能な付加価値の高いアオサノリを地域のブランド品とすることができれば、地域の産業の活性化だけでなく、徳島の特産品としてのアオサノリの知名度を高めることにも貢献する。さらに、将来的には、大学発のベンチャー企業の育成にも発展すると期待される。

ブランディング戦略

ブランディング戦略全体の概要

本ブランディング事業は、世界で初めて藻類成長因子を発見、構造決定、合成、そして養殖産業への実際の応用に成功した本学の研究力を、地域の課題となっている養殖水産業の復興と活性化のために提供するものである。その基礎となっているのは、本学の天然物化学を中心とする自然生命科学の研究活動である。しかし、地域住民、受験生にはそのことが十分に伝わっていないことが分析結果から明らかになった。本事業では、本学の「ものづくり、研究力の高さ」によって地域の産業を発展させることを活動の中心とすることにより、地域の養殖水産業の活性化を実現し、そのことによって地域における本学への期待度、信頼度を高め、受験生・地域住民から「サイエンスマインドを持つ学生を育てる大学である」「研究活動によって地域の産業を支える地域に欠かせない大学である」との認知を得て、大学全体のブランドの向上を目指すものである。

ステークホルダーごとに伝えたい徳島文理大学のイメージとブランディング戦略の全体像

1, 建学の精神を踏まえた大学の将来ビジョン
  徳島文理大学の将来ビジョンの実現における本事業の位置づけと学内への周知

 徳島文理大学の建学の精神である「自立協同」とは、自分自身のアイデンティティを確立し、社会の一員としての協調性の大切さを知ることである。徳島文理大学は、村崎学園が創立した明治28年(1895年)以来、その精神に基づいて教育研究活動に取り組んできた。今後も、徳島・香川の地域に根ざした大学として、建学の精神に基づいて、地域社会を学術的見地から支える役割を担うと共に、グローカル教育を推進することで、「地域の発展に貢献できる人材」の育成を目指していく。これは本学の将来ビジョンとして、学長主導のもと全学的な方針として決定されており、大学の教育理念と方針を示すアドミッション・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、ディプロマ・ポリシーにもその趣旨が記されている。
 本事業「藻類成長因子を用いた海藻栽培技術イノベーション」は、まさに本学のものづくりの力、研究の力を地域の養殖水産業の復興と活性化に役立てることで、地域の人々からの信頼と評価を得ることをめざしたものであり、本学の将来ビジョンと合致する。本事業の推進は理事会決定事項であり、部局長会議、全学合同教授会により全学内に周知されている。

2, 本事業で想定する効果を踏まえたステークホルダーの設定

ステークホルダー①地域の水産関係者

 本事業では、本学が確立した新技術とその応用 (アオサノリやスジ青ノリの陸上栽培システムや、文理大産ブランド海藻、網養殖への応用等)を核とし、水産関係の行政機関と連携を図りながら、地域の漁業協同組合、水産加工業への普及を通じて、養殖水産行の復興と活性化を目指している。したがって、地域の水産関係者が第1のステークホルダーとなる。具体的には、徳島県農林水産部、徳島県立農林水産技術支援センター、鳴門市水圏教育研究センター、香川県のさぬき市などの行政機関、および、地域の漁業共同組合、栽培漁業センターなどが相当する。

ステークホルダー②受験生

 徳島県、香川県の高校生(受験生)に対しては、これまで入試広報部を中心とした活動により、本学の魅力を伝える努力を行ってきた。しかし、本学の科学研究の高さ、また、それを地域の産業に活用している状況を理解してもらう上で、本事業の内容を様々な形で高校生とその保護者、教員に伝えることは、大学全体の広報戦略にとっても重要と考える。

ステークホルダー③卒業生

 本学は2020年に創立125年を迎える西日本の伝統校であり、多くの卒業生が地域社会で活躍している。卒業生に対する情報発信をこれまで以上に活発化することで、本学の優れた研究力と本事業の意義を地域の中に浸透させていきたい。

ステークホルダー④地域住民

 本事業により、地域で衰退しつつある養殖水産業の復興と活性化に貢献することができれば、水産関係者のみならず、徳島県・香川県の地域住民全般のおける本学のイメージアップにつながる。

ステークホルダー⑤専門分野の学会

 本事業の基礎となっている「バクテリアに依存しない藻類成長因子(サルーシン)を用いた海藻栽培技術」は、本学薬学部の研究グループがサルーシンの発見、構造決定、合成法の確立、養殖への応用技術の開発までを20年がかりで達成した研究努力の成果である。世界中の藻類研究者が成功していない藻類の陸上栽培を本学が初めて達成できたことからも、この事業が本学の極めて高い科学研究能力に基づいていると自負している。この事業で生み出される新たな研究成果についても、さらに専門の学会で国内外に発信し、地方から世界に発信するグローカル教育の一環として本学の教育研究活動に活かしたい。

3, 事業を通じて浸透させたい徳島文理大学のイメージ

 冒頭のイメージ図に示したように、本事業の推進によって、各ステークホルダーごとに下記のような本学のイメージを浸透させたいと考えている。

ステークホルダー①地域の水産関係者

ものづくり、研究力を通じて地域を支える大学

ステークホルダー②受験生

研究活動が活発な大学、自身のキャリアアップに繋がる大学

ステークホルダー③卒業生

地域を支える大学として誇りに思う大学

ステークホルダー④地域住民

地域社会・産業の発展に欠かせない大学

ステークホルダー⑤専門学会

天然物化学や自然生命研究に強い大学

4, アンケート調査等の既存データの分析による現時点での徳島文理大学のイメージ

 2014年から本学では、日経BPコンサルティングが行う大学ブランド・イメージ調査を通じて、中国・四国地方の企業を含む一般有識者や学校教職者を対象に、本学のイメージ及び認知度に関わる調査を実施してきた。本調査によると、本学の大学認知率は全体平均47.4に対して52.2とやや高値となるものの、大学の一般的イメージ、大学の施設、活動、在学生等のイメージに関わる50の細目評価から導き出されたスコアチャートは、全体平均49.4点に対して47.2点である。
 特に、本学の研究活動に対するイメージについては、地域の高校生や受験生に「研究力が高い」大学としては浸透していないことが判明した。毎年、受験生[ステークホルダー②]や新入生を対象にアンケート調査を実施しているが、その結果においても、「研究活動が活発である」の項目に対する評価は下位 (2017年データでは20項目中16位)であった。
 また、これまでに実施したアンケート調査や意見聴取に基づいて分析したステークホルダーごとの本学のイメージは以下のようにまとめられる。

ステークホルダー①地域の水産関係者

(地域企業)地域の大学としては親しみのある大学、ただし、社会貢献としては、他の大学と同等の評価。

ステークホルダー②受験生

学部学科が充実し、資格取得には積極的だが、研究活動が活発なイメージはない。大学の教育研究機関としてのビジョンがわかりにくい。

ステークホルダー③卒業生

教育研究活動が活発な大学、親切で丁寧な教育をしてくれる大学

ステークホルダー④地域住民

柔軟性があり地域では親しみのある大学。全国的な知名度は低い。

ステークホルダー⑤専門学会

天然物化学や自然生命研究に強い大学

 本学はこれまで、地域に自生する植物や藻類、海草等を利用して自然生命科学の研究分野を発展してきた。今年、国際的な学術雑誌Natureが発表した科学研究を牽引する日本のトップ100機関「Nature Index 2017 Japan」においては、全国ランキング78位に位置し、全国の私立大学中15位、中四国・九州の私立大学では1位の高評価を得ている。
 また、文部科学省主導の科学研究費助成事業における科学研究費(科研費)の採択数(2014年からの累積数)では、天然資源系薬学、化学系薬学、環境衛生系薬学、動物生理行動の4部門で全国上位10機関に分類されている。このデータは、数年前から文部科学省が公表を始めたもので、特定の分野における研究レベルが高いユニークな大学の存在を公表し、その大学の活性化に活用してほしい、との趣旨ではじめられたものである。本学は、国公立大学を含めた中で、科研費の獲得額が全国トップテンのレベルに入っている分野が4つもあり、そのうちの2つが「天然資源系」「化学系薬学」という本研究事業に深くかかわる分野である。
 また、毎年実施する卒業生[ステークホルダー③]に対する満足度アンケートにおいても、研究活動が活発な大学として認知され、問題提起能力と問題解決能力の実践的な習得の場として研究活動が高く評価されている。
 このように、科学論文の数、研究費獲得額などを指標とするアカデミアの世界では、本学の研究活動が高く評価されている。しかし残念ながら、地域の方々、受験生、高校生にはそのことが認識されておらず、大きなギャップが存在している。このギャップを埋めていくためにも、本事業を通じて、大学の研究力、将来ビジョンを強くアピールしてきたいと考えている。

5, 上記の分析結果を踏まえた情報発信の戦略

 本事業では、地域の水産業が直面する課題に対して具体的な解決策(安定した養殖技術、付加価値の高い水産物の創生)を提案し、その開発の過程において地域の人材育成へと繋がる活動として発展させたいと考えている。したがって、立案した本事業の遂行、プロモーション(働きかける段階)と共に、積極的な情報発信(伝える段階)が、アンケート調査や意見聴取から分析される大学のイメージ(特に地域の水産関係者、地域住民、受験生などに対するイメージ)を一新する大きなチャンスになると認識している。以下に、計画している主な情報発信手段をステークホルダー①〜⑤ごとに列挙する。

ステークホルダー①地域の水産関係者

藻類陸上栽培の技術提供そのものが地域水産関係者に対して、本学の科学力と地域貢献への志向を伝える最大の情報発信の機会である。さらに、大学発の付加価値の高いブランド藻類を開発し、独自の戦略で国内外への販売を拡大していくことで、大学のブランド力の向上と同時に、地域の特産品となるべきアオサノリなどのブランド化に貢献する。

ステークホルダー②受験生

入試広報部を中心とする通常の広報活動に加え、オープキャンパス、出張講義、高大連携による実験教室、学園祭、などの機会をとらえ、一方通行の情報発信ではなく、本学が開発した藻類成長・分化促進因子のすばらしさを、見る、触る、食べる、等によって体感してもらい、本学の研究力を実感してもらう。

ステークホルダー③卒業生

徳島文理大学アカンサス会(同窓会)の同窓会誌やホームページ、大学のホームページ、Facebookなどのメディアを通して、このブランディング事業の意義と進捗状況、成果を発信していく。

ステークホルダー④地域住民

本事業によって衰退しかけた養殖水産業の復興と活性化に貢献することは、地域住民における本学のイメージアップに多大なる影響を及ぼす。メディアへの積極的な情報発信のみならず、陸上栽培アオサノリの試食会、地域ブランド品の展示会への参加など、様々な機会を活用して情報発信する。また、陸上栽培アオサノリ開発の意義がわかりやすく書かれたパンフレット、動画などを作成し、情報発信に活用する。

ステークホルダー⑤専門学会

関連する専門学会(日本藻類学会、天然有機化合物討論会、テルペン討論会、日本薬学会、日本農芸化学会など)での発表、専門分野での論文発表や研究紀要の作成

6, 本事業を通じたブランディング戦略における具体的工程

 ブランディング事業の全体を通して、各ステークホルダーに対して、1.伝える段階(情報発信)、2.働きかける段階(協同)、3.将来ビジョンの実現、へと進めていく。また、3年目に事業全体に関する自主的な中間評価を行い、残りの2年間の戦略の修正、発展を図る。

ステークホルダー①地域の水産関係者

地域の水産関係者に対して、事業開始段階から事前会議を開催すると共に、定期的に主な取り組みや活動を報告していく。際立った成果等については、知財確保(特許取得)等の審議後に、徳島県農林水産部などの行政機関と連携を図りながら、地域の関連企業・団体に幅広く活動報告する。地域メディアへの情報提供やホームページへの掲載を積極的に実施する(伝える段階)。具体的な技術支援活動を通じて、陸上栽培アオサノリの産業化や地域への普及を目指す(働きかける段階)。最終的には「ものづくりを通じて地域を支える大学」としてのイメージの浸透を図る(将来ビジョンの実現)。

ステークホルダー②受験生

受験生や地域の中高生に対しては、大学案内や大学公式ホームページの高校生向けページ、大学公式FaceBook等にも本事業内容や成果等を分かりやすく掲載することで、本学の教育研究力や目指す将来ビジョンをアピールする(伝える段階)。本学が定期的に実施している出張講義や模擬授業、本学で開催する体験模擬授業、オープンキャンパス(働きかける段階)を有効に利用する。特に、本学で開催する体験模擬授業やオープンキャンパスでは、本事業により実生産した海藻や成長標本等の展示ブースを設置すると共に、本事業の研究で実際に行う分析実験などを体験してもらう。これらの活動を介して、「サイエンスマインドを持った人材を育成する大学」としての本学の教育研究活動の魅力を伝えていき、本学での学びに興味を持つ受験生を増加させる(将来ビジョンの実現)。

ステークホルダー③卒業生

卒業生に対しては、徳島文理大学アカンサス会(同窓会)へ向けた大学通信アカンサス誌や、同窓会専用のホームページ等を通じて、「地域を支える大学として誇りに思える」大学になれるよう努めていく。

ステークホルダー④地域住民

本学には、地域と大学の連携を推進する目的で、地域連携センターが開設されている。同センターでは、毎年、地域住民の健康増進セミナーや地域活性化を目的とした地域の歴史や文化活動に関わる交流会、連携協定を締結した徳島県議会や研究・事業団体との学術交流会等を開催している。同センターが定期開催している各種のセミナーにおいても、本事業の内容や成果等を地域の方々に定期的且つ効果的に報告する(伝える段階)。最終的には、「地域社会・産業の発展に欠かせない大学」として地域への浸透を図る(将来ビジョンの実現)と共に、大学知名度の向上を目指す。

ステークホルダー⑤専門学会

これまで自然生命科学の分野においては本学の研究陣が一定の成果を上げ、近年では研究が盛んな大学として認知されてきた。本事業の成果についても、各実験グループが学会発表や論文発表を通じて随時成果を世界に発信する(伝える段階)。また、アオサノリよりさらに困難が予想されるアサクサノリ等の紅藻類の成長因子を同定する過程で、さらに高いレベルの科学力が要求される。それを実現するために全学の教員・学生の力を結集していく(働きかける段階)。そのことで、本学の科学レベルが向上し、学会等での評価を高めるとともに、アサクサノリの復活に向けてその成果を活用し、地域の産業発展にさらに貢献する(将来ビジョンの実現)。